バイオダイナミックスとは何か
非従来型の医学視覚(ビジュアル)大辞典1978年
(ニューイングリッシュライブラリー出版)
バイオダイナミック心理学国際財団提供資料より
(International foundation for Biodynamic Psychology)
神経症の具体化、身体化
バイオダイナミック・セラピーのワークでは、身体的な緊張と制限を、特殊なマッサージと動きのテクニックを使って扱い、その人が身体的に表現している事柄に特別な注意をむけます。神経症は心理的発達に限らず生理的な面でも発達するからで、人は文字通り自分の神経症を体で表していると言えます。
情動、ショック、フラストレーションはすべて、心理的側面と同様に直接生理的側面にも影響します。感情の表現が繰り返し抑えられ、葛藤が解決されないと、それらの結果は慢性化します。ストレスが積み重なってたまると、ついには神経症の症状が現れます。人によっては主に身体化する場合もあれば、行動に表れる人もいます。幼少期にこれらのことが起きれば、ことさら悲惨な状態になります。成長期の子供の精神、感情、そして身体に大きな影響を与えるからです。
自己治癒力と自己調整(セルフレギュレーション)
健康な有機体は、必要な平安と安心があれば、深刻な感情であってもそれを表現し、解決、消化する力をもっています。人が生来持っている自己調整(セルフレギュレーション)と自己治癒の能力を失ったときに初めて、神経症が生まれます。バイオダイナミック・セラピーでは失われるあるいは低下した、この自己調整(セルフレギュレーション)の能力を回復し、その人が持っている「生き生きとしたコア」にたどり着くことを目ざし、刺激や励ましでコアが広がる手助けをします。
「第一次人格」と筋肉の鎧
多くの場合この「生き生きとしたコア」や一次人格は、子供が成長の途中、自分に優しくない環境に、よりうまく対処できるように作り上げた「二次的人格」の下に隠されてしまいます。この二次的人格はウイルヘルム・ライヒの言う性格と筋肉の鎧に相当するもので、人はこれを使って外から来る激しい攻撃だけではなく、自分自身の歓迎されない感情からも自分を守ります。自分の感情を歓迎できないのは、周りから受け止めてもらえないからです。例えば、こどもが怒りを表現するたびにひどく罰を受けた場合、文字通り自分の怒りを、筋肉を使って無理に抑え込む可能性があります。ついにはこの抑制のプロセスが体の構造の一部になり(筋肉の鎧化)、子供は自分がいかっていることさえも感じなくなります(性格の鎧化)。ゲルダ・ボイスンはこのライヒの考えを更に発展させ、内臓の鎧化、組織の鎧化の概念を生みました。
情動のサイクルと心理腸蠕動
情動のサイクルはバイオダイナミック心理学にとって重要な考えですが、単に心理的側面に限らず、身体のプロセスとしても考えます。
強い感情の高まりと鎮まりは、微細なレベルおよび「情動的な血流」による血管運動の再編成(リオーガニゼーション)をとおして、生理に大きな変化を引き起こします。強い感情を引き起こす出来事が終われば、これらの身体プロセスは正常な状態に戻るはずで、健康な生命体では正常化します。強い感情による身体への影響が生命体から本当に取り除かれれば、ひとは強い感情をのりこえることができます。
ゲルダ・ボイスンの理論では、腸の蠕動運動(腸のごろごろ音、腹鳴)がこの除去プロセスで重要な役割を果たしていると考えます。蠕動波は消化のプロセスに影響するだけではなく、強い感情のストレスに関連した生命体のプレッシャーに反応します。この働きをゲルダ・ボイスンは「心理的腸蠕動運動」と名付けました。
心理的腸蠕動運動をとおしてからだから、強い感情を引き起こす出来事から残っている影響を除去します。しかしこの心理的腸蠕動運動が情動のサイクルを完結する役目を果たすには、生命体がもはや警戒態勢をおえて平安と安心を得られる条件が必要になります。
内臓と組織の鎧
ストレスと葛藤を抱えた環境で、深い安心を感じることなく生活している場合には、腸の蠕動運動は抑制されます。最終的には腸の筋肉が実際、心理的腸蠕動運動に刺激をあたえるはずの圧(プレッシャー)に反応する能力を失うことになります。この反応の喪失が、内臓の鎧化です。これは自己調整(セルフレギュレーション)の一つで、これを失えば体はストレスの影響を完全に除去できません。
心理的腸蠕動運動が不十分な場合、体液の循環も不十分になり、組織の浄化も完全ではなくなります。生命エネルギー(バイオエネルギー)が自由に流れすべての細胞を活性化できない結果細胞の機能も弱まります。これが組織の鎧化です。
バイオダイナミック・セラピー
バイオダイナミック・セラピーにはすでに決まったコースはありません。一人一人のクライアントのニーズに沿って、異なるセラピーを行います。多くの場合セラピストは筋肉、内臓、組織にあるからだの鎧化を特殊なマッサージを使って、解くように働きかけます。セラピストはマッサージをしている間、腹部に聴診器をあて腸の蠕動音をつぶさにたどります。これらの音は驚くほど多様で、それ自体が完全な言葉と考えられるほどで、セラピストのいろいろなタッチに反応します。セラピストは過去の感情エネルギーが抑圧されてため込まれている体の組織の特定の場所にタッチし、音を手掛かりにしてこのエネルギーが腸の蠕動運動をとおして自由になり、うまく生理的に放出されることを聞きわけます。最高の腸の蠕動音を引き出すようにワークを続けながらセラピストは未完の情動のサイクルからの「ストレスの残滓」を体の細胞から、少しずつ除去します。
一層ごとにからだの鎧化が解け始め、生命エネルギーがより自由に流れ始めると、これまで抑制されてきたエネルギーが「穏やかに上昇」します。この上昇がじゅうぶんに強くい場合、セラピストはマッサージをつづける代わりに、クライアントを促して「内側からの刺激」を認識できるように集中し、それを育てて自分で表現するように励まします。この「内側からの刺激」はその人の生きているコアからの興奮、感動で、文字どおり認めてもらいたいと押しているのです。
「内側からの刺激」はいろいろな形を取ります。ほんの小さな筋肉の引きつり、痙攣、ぴくぴく、かすかな記憶の浮上、呼吸が大きく広がる、深い情動が爆発的に表現されるなど、さまざまな形があります。時にはからだの鎧の中に抑制され、ずっと隠れていた古い記憶や過去の感情が意識の表面に戻ってきて、多くの洞察を生み、心理的浄化を深めることもあります。あるいはセラピーのプロセスが身体レベルに限って起きる場合もあります。
いずれの場合も、バイオダイナミック・セラピーは基本的には生物学的浄化のプロセスです。神経症が体から除去され、生命体の生き生きとしたコアが制限から自由になり、神経症のない一次的人格が明るみに出て、再発見されるなかで、可能になるのです。
(文責:国永史子)