ボディサイコセラピーについて

ボディサイコセラピーは、ヨーロッパ心理療法協会(The European Association for Psychotherapy)に公認された、長い歴史と根拠のある理論に基づく、身体を取り入れた心理療法です。心身には複雑な相互作用がありますが、ボディサイコセラピーには、心身の機能に関する明確な理論があり、それは「身体はその人全体を映し出し、心身は機能的に一つである」という前提に立っています。身体は精神と心から分離したものではありませんし、それらには階層的な関係もありません。身体、心、精神は人間存在全体に同時に作用するのです。

また、人間を生物的存在、心理的存在、社会的存在、精神的存在という視点からも観ています。ボディサイコセラピーには多くの学派がありますが、すべてこの原則を重んじています。

具体的には、心身の発達モデル、人格理論、障害のもととなる鎧化に関する仮説など、臨床場面において心身に何が生じているかを理解するための豊富な理論と、タッチ、ムーブメント、呼吸などを用いる、身体、心、精神に働きかける技法があります。

なお、ボディサイコセラピーには、生物学、人類学、動物行動学、神経生理学、神経心理学、発達心理学、新生児学、周産期学など、ここ70年にわたる研究成果から発達した科学的側面があります。

BIPSとは

BIPS(バイオ・インテグラル・サイコセラピー・スクール)では、頭にバイオがつく主に4つのボディサイコセラピー(身体心理療法):バイオエナジェティックス、バイオシンセシス、バイオシステミックス、バイオダイナミックスをそれぞれの共通点と他と異なる特徴を明確にしながら、統合した形で研修し、人間の健康と成長に貢献することを目的にしています。現代を象徴する病理はストレス、ボーダーライン、トラウマ、(そして健康とはなにかの概念も含む)と言えるでしょう。これらを抱え、悩む人間そのものを理解しようと、「からだ、こころ、魂(soul, spirituality)」からアプローチし、模索し、考えを進めてきた人々の理論と実践を、この4つのバイオの学派を中心に統合するのがBIPSです。BIPSは、ヨーロッパ・ボディサイコセラピー協会(EABP)に認定され、世界心理療法競技会(WCP)にも属しています。

全ての源:ウイルヘルム・ライヒ

最初に、こころとからだの一体性に注目したのはフロイトの弟子、ウイルヘルム・ライヒです。彼は言葉ではうそをつけてもからだはうそをつかない、つまり身体表現が多くのことを物語り、暴露し、そして手掛かりを与えてくれることを見つけました。人が自分を防衛するために身につけた性格の鎧は、筋肉の緊張、あるいは過度の弛緩という形でからだにも鎧を作り上げます。ライヒは直接これらの筋肉に働きかけて、そこに含まれる感情のエネルギーの解放を促す方法を見つけます。そして、呼吸が大きな役割を果たしていることにも注目しました。「神経症者で呼吸の問題を抱えていない人はいない」ということも断言しています。ライヒの性格論の中心は、人が世間に見せているマスクの下に破壊的な感情を含む第二の層(シャドウ)があること、しかしその下には全ての人が人間性にあふれたコアを持っていることを強調した点です。怒りや憎しみ、深い悲しみが十分に表現された後で人が見せる愛にあふれた豊かなエネルギーはコアから流れてくるものです。ライヒはまた人は皆、生まれながらに自己調整力、セルフレギュレーション能力があることも強調しています。

BIPSが提供するボディサイコセラピーの4学派について

アレクサンダー・ローエンのバイオエナジェティクス

このライヒの性格論を、さらに成長の過程と密接に関連づけ、からだの特徴も交えて完成させ性格分析の基本を作ったのは、アメリカ人のアレクサンダー・ローエンです。ローエンはエネルギーを活性化させて放出する多くのエクササイズを考案し、そのセラピーをバイオエナジェティックスと命名しました。エクササイズの多くは自分の性格と体の鎧を解く方法として、仲間のジョン・ピエラコスとともに自身の体で試しながら磨き上げたものです。ローエンの一番の貢献は何と言っても、自立の基本となるグラウンディングのエクササイズと概念を明確にした点です。バイオエナジェティックスではからだを読み、筋肉の緊張を緩めると同時に常に性格分析を行います。

デイビッド・ボアデラのバイオシンセシス

ライヒやローエンは、人の鎧化は生育の過程で生まれると考えていました。敵対的な環境から自分を守るために鎧を作るということです。イギリス人のデイビッド・ボアデラは子宮の中で既に胎児が自然な生命エネルギーの流れを阻害する鎧を身につけると主張しました。鎧がなければ外胚葉、中胚葉、内胚葉の間ではスムーズにエネルギーが流れるはずです。ところが例えば子宮が胎児にとって安全で心地の良いものではない場合、胎児は自分の叡智で生命を一番心地よいものにしようとします。一番いい例がつめたい子宮です。母が子を望んでいない場合、あるいは何らかの事情で胎児に愛情を注げない場合、子宮へのエネルギーが低下するので羊水の温度が下がります。胎児は自己調整能力を使って自分が動いてからだを温めますが、それでもまだ寒い時には、自分の体表面からエネルギーを中に撤収することで体表面の温度を下げ、羊水の冷たさを感じないようにするそうです。バイオシンセシスでは外胚葉、中胚葉、内胚葉から発生した脳、皮膚(感覚、思考);筋肉骨格系(運動);内臓(感情)の3つの層の分断を統合することを目指します。ライフ・フィールドは人を診断し、セラピーを進めるうえで大きな地図になります。デイビッドはまた、からだとつながった「バイオスピリチュアリティ(Bio-Spirituality)」にも注目しています。バイオシンセシスでは胎児期にすでにみられる4対の動きの場(屈曲-伸展、拡大―縮小、焦点化―回旋運動、活性化―吸収)に脈動をくわえた9つのモーターフィールドの活用も、人が健康を取り戻す上で重要な働きをするとみなしています。

ジェローム・リスのバイオシステミックス

バイオシステミックスは、神経生理学とシステム理論という二つの理論から成り立っているのが特徴です。神経生理学者のアンリ・ラボリットは、私たちの脳にはある行動が不可能な場合、それをブロックする神経経路が存在することを研究によって明らかにし、このことを「行動抑制システム」と名付けました。このシステムにより抑制された行動や感情を解き、それをうまく表現できるように、セラピーは進められます。それとともに母子関係の観察に基づく発見を中心に、システム理論をセラピーに取り入れています。ジェローム・リスはBIPSのトレーニングの前身、バイオシンセシスのセラピスト養成コースの初期に2度来日して、直接日本で指導しました。さらに、エコロジーやコミュニケーション方法への深い興味から、この方面での貢献も深く、最近邦訳された『悩みを聴く技術』では、バイオシステミックスに根を置く傾聴法を読みやすく紹介しています。 ジェローム・リスとデイビッド・ボアデラは親交が深く、互いの考えの中に多くの共通点があります。ヨーロッパ学派に共通して言えることはアメリカ学派に比べて、優しく柔らかなアプローチが多い点です。 アイコンタクト、タッチなどに関しても最近の母子関係の研究から、子供が許容できる以上の過度のコンタクト、エネルギーによる侵入が問題になっていることから、クライアントのニーズに基づいて、程よい関係を探ることの重要性を強調している点もヨーロッパからきている主な流れです。 日本ではバイオエナジェティックスを除けば、ほとんど文献が訳されていません。ライヒは1960年代に多くが翻訳されています。また、バイオシンセシスはデイビッド・ボアデラの「ライフ・ストリーム」を分かりやすい形で発行することがBIPSの責務であると考えていますので、なるべく早期にそれを読みやすい形で提供できるよう努力します。公開する準備が整った論文は、公開情報に掲載しています。各学派についてより詳しく知りたい方は、論文をお読みください。

ゲルダ・ボイスンのバイオダイナミックス

心理療法家であり、理学療法士でもあったゲルダは、鎧には性格、筋肉に加えて内臓、組織の鎧化もあることを発見しました。ゲルダの発見の糸口になったのはボーダーラインのクライアントでした。緊張した筋肉に働きかけると症状が悪化するクライアントの存在から、これらのクライアントの主な鎧が内臓にあるとの結論に達します。このことをきっかけにゲルダは、多くの臨床経験を経て「心理腸蠕動」という概念を作り出しました。腸の蠕動運動は、単に食べ物の消化するだけではなく感情をも消化するというものです。実際のセラピーでは聴診器を使い、心理腸蠕動を活性化させるための多様なマッサージを用いることもします。また、4つのバイオのなかで、唯一女性が創始者であるため、バイオダイナミックスは女性的で受容的なセラピーであることも特徴の一つです。例えば、心理療法には、防衛を突破することを良しとするものもありますが、ゲルダは防衛と友だちなることを大切にしています。

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