無意識世界の鍵を開けるキーワード

ジェローム・リス

キーワードとは鍵のようなものである 無意識世界へのドアには鍵がかかっており、そのドアの鍵を開けることができるのがキーワードです。

私は自分が苦しんでいて不幸なときは、”わたしは苦しくて不幸だ”ということを知っています。しかし、なぜ?、どうして?、なにについて?。 そんなときは、たぶん、次のような考えが繰り返し浮んくるはずです:”やらなければ良かっだ、”悲しい”、”これで終わりだ”、”むなしい、空虚だ”、”あんチクショウ”。

これらはすべて、私の不幸を表わすキーワードです。これらは私の気づきのいちばんのうわっつら、つまり氷山の一角で、その下には地獄があります。しかし、私はまだそこまで行けない、行くのが恐い、第一どうやっていくのかわからないの‥‥‥‥。

地下室へ下りていくか、もしくは窓から飛び出すか

そこで、セラピスト役の私の友達は、”もう一度言ってください!”と言います。払はそこで、私のキーフレーズを何度も繰り返し始めます。だんだんと強く言うことでドアをこじ開け、砲門を開け、恐怖の地下室を開けるかもしくは私の心の窓から思い切って飛び出そうとします。内側でなにが起こっているのかもっとよく知るために‥‥‥‥。

“キーワードを繰り返し言うだけですか?、リス博士、それで充分なのですか? セラピストはもっといろいろなことをするべきだと私は考えていましたよ。例えば、解釈したり、探ったり、見抜いたり、ナイフで抵抗に切り込んだりというようなことをしないのですか?” 

リス博士: ”私があなたのクライアントになったときは、お願いですからわたしにナイフは使わないでください!”

“そこにあるものとともにいてください”

そういう訳で、私は非常に奥が深く、しかもナイフを使わないですむセラピーアプローチについて話しているのです。それは相手を尊重するとともに、安全なものです。

私がキーワードを使うときは、 – 私がクライアントであろうとセラピストであろうと – 私はより深く入っていきますが、しかしそれはゲシュタルト的な意味において、つまり”そこにあるもの”とともに入っていくということです。 

どんなセラピストでもキーワードを使うことはできますが、特に身体志向の心理療法士が使うと有効です。このことについては、また後程述べます。

否定的な解釈はクライアントの自尊心を傷つける

キーワードを使うセラピーの背景についてまず説明します。私は、ゲストトレーナーとしていろいろな身体志向の心理療法のトレーニンググループをリードするとき、学んでいるセラピスト達が巧みに、また直感的に身体ワークをおこなうことにいつも感心させられます。つまり、彼らはまさに適切なコンタクドを使ってクライアントが深い感情に接触するのをたすけたり、体共感を使って親密な安心できる雰囲気をつくったり、クライアントが表現する自由を新たにみつけると、その役を交互に演じてクライアントをサポートしたりしている姿です。

しかし、一方、ワークの言語的側面になると、学んでいるセラピスト達は往々にしてあいまいになったり、混乱したり、時には矛盾することもあります。つまり、抑圧された幼児期のトラウマに到達するために彼らは否定的な解釈”を使うのですが、そうすることで、まさにセラピー的介入が乗り越えようとしているトラウマ – 自己否定性と敗北感 – そのものを再刺激してしまうことになります。
こういう理由で、私はこの論文で、明確で、正確で、その上セラピー的に有効な利点を持つと思われる”心理療法における言語の使用”方法を明らかにすることにしました。このモデルは”キーワード”とよばれるもので、”キーワード”は”キーフレーズ”のことでもあります。セラピストがワークをするとき、個人の進展についてのいくつかの地図を心にとめておくと、ワークは深まり、先へと進んでいきます。つまり、すでにそこにある感情を深め、問題から解決へと移動し、交感神経と副交感神経を交互にうまく使い、そして思考を先に進めていくのです。

パートI:キーワードを使って深める

“キーワード”とは何か?

キーワードもしくはキーフレーズとは熱い言葉もしくは熱い句を意味します。それらはいろいろな色に染まります。たとえは、情熱は赤、絶望は黒、希望と輝きでは白や黄色になり、甘いオレンジのような感情ではオレンジ色になります。専門的に言うと、キーワードとキーフレーズとは、クライアントの言語コミュニケーションのなかに埋もれている特別な言葉であり、クライアントの特定の感情エネルギーを伝えたり、またクライアントの経験の重要な側面を明らかにする言葉のことです。キーワードを聞くたびに、明かりがまたたき、振動がこきざみに揺らぎ、肉体は震える必要があるのがわかります。つまり、キーワードとは、感情、エネルギー、衝動、力なのです。傷つきやすい花弁と考えてもいいでしょう。

簡単な例を一つ:
“私、今日はあまり気分がよくないの。本当のことを言うと、最悪な気分よ!”
キーワード:最悪な気分よ! 

他の例:
“今朝起きた時、私、繰り返し同じ考えが浮んできたわ、おまえはめちゃくちゃだ!
おまえの人生は台無しだ!”
キーワード:めちゃくちゃだ!、台無しだ!

“私、母がその写真でどんなふうに写っていたか考えていたのよ。母の表情のなかのなにか、
母の目‥‥、そんなことがあり得る? 彼女は本当に気がちがっているの?
彼女のなにか‥‥ボーっとしている‥‥” 
キーワード:気がちがっている? ボーっとしている‥‥、たぶん、目‥‥

“私の夫は、これまでも決して口数が多い方ではなかったわ。でも、今は家に帰ってくると、
ドカッとテレビの前に座り込んで、一晩中何も言わないのよ、たったの一言もよ!(休止)
そうされると、私寂しくなるわ‥‥どうしたらいい? 私何をすべきかしら? 
(セラピストをみながら)
キーワード:たったの一言もよ!(交感神経的な怒り)。
そして、寂しい‥‥(副交感神経的な傷つきやすさへのリバウンド)

どのキーワードを、セラピストは選ぶのでしょうか? 直感と経験とから、セラピストは早急に決断を下すことになります。つまり、今のところは、傷つきやすくもろい感情を深めることが大切だと思えば、寂しいを選び、今は交感神経的な怒りを深めて探ることが好ましいと感じるのであれば、一言もよ!を選びます。いずれを選ぶにしても、鍵を開けるのはキーワードです。

最後に一言:どの語(もしくはフレーズ、もしくはフレーズの一部分)がキーワードなのか、かならずしもはっきりしない場合がある。しかし、それでもよいのです。 R.D.レインが The Politics of Experience(2)で強く指摘しているように、自分自身を除けば、クライアントだろうとだれのであろうと、だれかの内的な世界を確実に知ることなどできないのです。だから、クライアントが言ったことの全体から最もぴったりくるキーワードを選ぼうとするとき、私たちがおこなう直感的な判断はどれも、認識論的に言えば、仮説であり真実ではないということを認識しておく必要があります。

キーワードを繰り返し言う

では、セラピストはクライアントのキーワードをどのように使うのでしょうか? 繰り返して言うのです! キーワードをただおうむ返しに言うだけではなく、クライアントのイントネーションやリズムにできるだけ近づけて繰り返すのです。こういう理由から、私は上記したキーワードを、それらの文法上のシンボルとともに、”‥‥寂しい‥‥”とが一言も言わない”というように書きました。と言うのも、言われたときのイントネーションとリズムもキーワードの大切な一部なのに、読者は書かれたものから音を聞くことができないからです。

ボディセラピストのチャンス:身体的介入によって深められたキーワードを使うこと

質問:”リス博士、このセラピーアプローチはただ単にキーワードを繰り返して言うということだけではないんでしょう?””その通りでず”しかし、それを説明する前に、あなたはなぜ、キーワードを使うアプローチはボディサイコセラピストにとって特に興味深いものだと前に言ったのですか?

答え:まず前置さとして申し上げますが、私はボディサイコセラピーが好きです。このことを Energy and Character のなかで言うことは危険なことではないとおもいます。そして、私がボデイサイコセラピーを好きだと申し上げるのは、私は身体志向のサイコセラピーは、人々が問題を探り、きわめて重大な解決に到るのを助けるとても素晴らしい道具だ、とおもっているからです。要点はつまりこういうことです。キーワードメソッドが身体志向のサイコセラピーの介入とともに使われると、それはつまり、同時に使われるということですが、我々は人々が自分の無意識の世界を開き、そこに隠されている多くの秘密を掘り出す手助けになるすぱらしい方法を手にいれたことになるのです。フロイトは自由連想を無意識へ到るための王道としてつかい、何人かの身体志向のサイコセラピトは、同じ無意識への道として、身体接触と身体の動きをあまりに限定してつかっていると私は思います。このキーワードメソッドは”言葉と身体を一緒に使おう”ということを提案するものです。これは時には、非常に大きな力にもなり、深く豊かな休息にもなります。


キーワードを繰り返し言うことで経験のエコールームがつくられる

例をあげていろいろな使い方を話す前に、現象論、つまり、セラピストがクライアントのキーワードを繰り返すことについての経験的衝撃をすこし説明します。例えば、私が”私は憂うつだ”と言い、私のヘルパーが”うん、憂うつだ”と言うとき、(私は、ハコミセラピーの創始者のロン クルツにフランスのツリムルーチで短い時間ですが会ったことがあるのですが、今彼がそのときこのリズミカルなエコー(くり返し)を使っていたことを思いだしています) 憂うつだということについての言葉のエコールームだけではなく、経験のエコールームもつくられるのです。こうすることで、クライアントは憂うつだ”という自分の経験を吸収する時間をもてるし、セラピストが自分の憂うつ経験を吸収してくれているということを吸収する時間をもつことができるのです。要は、セラピストが自分を共感的に取り込んでくれていることをクライアントがわかると、もうすでにセラピーの一番重要な段階がはじまっているのです。(3A) 

クライアントの立場に立つと、では何が起こっているといえるのでしょうか? セラピストが共感的態度でキーワードもしくはキーフレーズを繰り返し言ってくれると、次の二つの点でクライアントのためになります: 第一は、セラピストを通してクライアントは自分の経験のエコー(反響)を感じるので、クライアントは自分の言ったことに意識を向けておくことができます。つまり、”それとともにとどまる”のです。 第二に、クライアントは、セラピストが身近かにいてサポートしてくれるのを、直接感じることができます。”The Self, the impulse and the other”(4)の論文で述べたように、衝動は強化され、他者は共感的に、自己はより自己受容的になるのです。

もし、セラピーが川を渡るようなものだとしたら、クライアントはこの時点では、ひとつの岩の上にほとんどうずくまって、その立場を変えないままとどまっているところです。たいしたことではないじゃない? とんでもない! これはたいしたものです! ”自分を変えるためには我々はまず自分自身にならなければならない!”ゲシュタルト的かつ瞑想的な美しいフレーズです。このキーワードメソッドはそこに、つまり、自分がいるところ、に到達するための方法です。

“あなたの身体でキーワードを表現してください!私もあなたと一緒にやります!”

セラピストはどのようにしてキーワードと身体介入を組み合わせることができるのでしょうか? クライアントが二つの衝動、つまり言葉と身体を一緒に表現することをセラピストはクライアントに提案するのです。この点を説明するため、最初に示した例のひとつにもどります。

“今朝起きた時、私、繰り返し同じ考えが浮んできたわ、おまえはめちゃくちゃだ! おまえの人生は台無しだ!って(キーワード:めちゃくちゃだ! 台無しだ!) 

これが6回目のセッションなので、クライアントのルイーズは、このゲームのこつというか、ルールをすでに知っています。もちろん、彼女は、こういうふうに身体全部を使うことでキーワードを充分に表現するワークの方法には前もって同意しています。(4A)

セラピスト :”めちゃくちゃだ! 台無しだ!”そう、ベッドで‥‥目が覚めて‥‥、
       もっと言えますか? 
クライアント:夫が留守なので、今朝ベッドに横たわったまま、今の私の状況を考えたの。
       うまくいかないのよ、その、結婚のことだけど。でも、私たちには子供が
       ふたりいるわ。同僚のフランクに魅かれているけど、それは関係ないわ。
       ジェフ(夫)を捨てて、フランクの胸に飛び込みたい訳じゃないの。
       この問題はもう何年も前からあったのよ、フランクなんて聞いたこともない時
       からあったのよ。私、これからどうするのかしら?
セラピスト :する!‥‥、そう、する、ね。
       でも、今”感じる”ことにもどっていいですか? 
       そのあとで、”する”っていうのは? 
クライアント:ええ、もちろん‥‥ 
セラピスト :感じて‥‥”台無しだ。めちゃくちゃだ”これを何度か言えますか?
       出して下さい、もっとよくわかるように、もっとよく感じられるように‥‥.
クライアント:”台無しだ‥‥、めちゃくちゃだ!”

セラピストは、彼女の言葉と自発的に出て来たジェスチャーとをルイーズと一緒になってやります。これが、身体的共感と呼ばれているものです。(5) 何が起こるのでしょうか? 彼女の両腕と、両肩と、顔が、蠕動運動をブロックされて膨らんだ腸のようにゆがんでねじれ出します。‥‥実に彼女は、二年以上もお腹に持病をもっているのです。‥‥そして、彼女がだんだん力を込めて言葉を繰り返し、セラピストが彼女と一緒になって彼女の言葉とジェスチャーを繰り返して身体と声の共感をつくり出すにつれて、ついに彼女は目を半分閉じて、怒りとも泣き叫びともつかない迫力のある表現をしました。(彼女は、交感神経的怒りと副交感神経的な泣き叫びの間で身動きできなくなっているのです。) 

ある瞬間、彼女はこれから何か重大なことを宣言しようとするかのように、両腕をあげます(交感神経的一中胚葉的ジェスチャー)。しかし、彼女の言葉はとまり、彼女の両腕は敗北のうちにさがります(副交感神経へのリバウンド、”私は、できない”)。

セラピスト :(やさしく、きっぱりと)ルイーズ、ちょっとの間、
       両腕をまた持ちあげられますか。

そして、セラピストは、一方の腕を彼が意図した位置、つまり、彼女の頭よりすこし上にやさしく持ち上げます。彼女は、両腕を頭より上の位置に動かし、セラピストは、その両腕をその位置で支え、その力強い姿勢で同じキーワードを繰り返すよう彼女に言います。”台無しよ‥‥めちゃくちゃよ!”そして、彼らはキーワードを一緒に三回言います。彼女の両腕は声に会わせてリズミカルに動いて、そして、‥‥ルイーズは崩れ落ちます! 突然、彼女はひざまずき、両腕を下げて、顔がほとんど膝に入るほど背中全体を折り曲げます。深く、苦痛に満ちた泣き声がほとぱしり出て、涙が流れ出てきます。セラピストは、彼女に同じ言葉を繰り返すか、または別の言葉を思いつくのならそれを言うように励まします。そして、苦痛と絶望のうちに、彼女は”台無しよ‥‥めちゃくちゃよ!”と、繰り返します。その後、”台無しよ!”とだけ言い、セラピストも彼女と一緒にそれを言います(同時に、同じトーンと同じリズムで)。このようにして、内胚葉一中胚葉の(6)”結び目”となる言葉がクライアントとセラピストの両方によって繰り返され、クライアントの泣き声は大きくなり、やがて、出尽くします。

安心と開放感を深める

“私、解決しなければならないわ!”というのが、次に彼女の目から自発的に出たフレーズです。(”する”という中胚葉のフレーズ)そこで、セラピストとクライアントは、今度はこのフレーズを一緒に何度も繰り返しはじめます。繰り返すにつれて、ルイーズのエネルギーは、はっきり”したものになり、彼女の呼吸は深まり、彼女の姿勢は背中をまっすぐにしてほとんど座った状態に戻り(しかし、彼女は、まるでこれから何かをじっと考えるように膝の上で肘をついている)。彼女の目は、泣いたからだけではなく、安心からも輝いています。これは問題の相が、解決 – 建設の相へと移行する準備ができたということです。(5) あえて云いますが、彼女の安堵感が完全だということではありません。そうではなく、彼女は”なにかする”ということに固執していて、(もうすでに二回言っていますが)このことは、セラピー(つまり、彼女の人生)を先に進めるためには、彼女は新たな歩みを考える必要がある、ということを意味します。前に引用した”否定から肯定へ”を参照してください。
 
上記の例の要点はこういうことです。セラピストが解釈したり、連想したり、理解したり、またはどんなふうにしろ口をはさむことで外部からキーワードを導入しなくても、自分のキーワードにフォーカスすることで、クライアントは自分の置かれた状況のジレンマと自分の深い感情の両方にフォーカスするができたということです。もし、セラピストがセラピスト自身のキーワードをたくさん導入してしまうと、クライアントの感情的 – 認識的な経験の強烈さは薄められてしまいます。それでは身体的介入はどうなのでしょうか? キーワードのワークは適切な内胚葉 – 中胚葉の身体介入(7)と結びつくことによっても、セラピーをより強烈なものにすることができます。これは、クライアントの経験が深まり、変化するということです。感情が解け、放たれると、不安と憂うつの黒雲は消えていきます。 

反対意見:リス博士、矛盾があります。セラピストは、クライアントから出てくるキーワード以外の言葉は使わないとあなたは云いましたが、この例では、セラピストはそれ以外の言葉をいろいろつけ加えて言いましたよ。

リス博士:その通りです。しかし、セラピストの云った言葉をみてもらうと、‥‥”それを、何度か云えますか?””それを出せますか?””私もあなたと一緒に云います!””もっと大きな声で云いましょう!””その動きを一緒にやってみませんか?”‥‥これらは感情的な衝動を伴ったキーワードではない、ということがわかりますね。これらは、セラピーをどっちの方向に導くのかを示す”方向づけの言葉”です。キーワードをより力強く、表情豊かに、そして身体全体を使って云うためのものであり、セラピストも一緒になって同じことをすることによって、クライアントをサポートするためのものです。心理的な注意を向ける方向を示唆するために、セラピストがどんなふうに”方向づけの表示”‥‥”そのイメージはどんなですか?””その感情はどんなですか?”‘他の言葉が浮かんできますか?”‥‥を加えることができるかをのち程”キーワード選択の厳しさの章で示しましょう。

これらは、”方向づけの質問”です。これらは、イメージ、感情と思考の三つのチャンネルを含むセラピーの経験の地図の論理に沿うものです。

パートII:キーワードを使って問題から解決へと進む

“本題に入る”

“次のステップ”である、解決ワークもまたキーワードを使って進めることができます。ルイーズの例で、彼女は息ができるスペースというキーワードを出しました。そこで、我々は、近い将来少なくとも部分的にでも”息のできるスペースを創るために、ルイーズがどんな具体的な行動をはじめられるかを決めることにワークをフォーカスしました。(8) 彼女は、夫が十日間仕事で家を留守にすることを利用して、彼女自身のためにいくらかの”息のできるスペースを持つということを考えました。それでは具体的にはどんなものだったでしょうか?

・彼女の苦悩と混乱を深く打ち明けることができ、
 それを秘密にしてくれる二人の女性の親友と一晩を過ごす

・一晩一人で映画を観にいき、別れることにきめたら必ずもつことになる、
 自由な”息のできるスペース”を昧わってみる

・一日戸外(”息のできるスペース”) で子供たちとだけで過ごし、
 将来日常的になる片親関係を強化し、探ってみる

もう一度云うと、この”具体的な次のステップ”(9)を考えるときは、”息のできるスペース”という言葉が使われます。同時に腕は空中に広げられ、呼吸を広げるジェスチャーをして(こうするのはこれらの次のステップを計画し想像する間(10)、適切な身体的な活気を保つためです)、セラピストも身体 – 声の共感を与えます。

キーワード選択の厳密さ:問題の材料対解決の計画

どのセラピー的介入にも、”利点と欠点”があります。セラピストはワークの方向をきめ、無意識の連想へのドアの鍵を開けることを助けるために、例えば、”何を思い出しますか?”もしくは”イメージまたは別の大事な考えが浮んできますか?”というような広い解釈ができる質問をすることがあります。

一方、セラピストは、感情的なワークにおけるクライアントのその時の段階、つまり、”問題を探る”段階が解決を計画する”段階かに対応してキーワードを厳選することで明確さをもって介入することもあります。したがって、上述した例では、セラピストは、”息のできるスペース”というキーワードに結びついた解決ワークをすることを選びました。セラピストはどうしてこの選択をしたのでしょうか? 第一に、クライアントはもうすでに充分に呼吸をしはじめていて、このことは彼女の身体(筋緊張、姿勢、ジェスチャー)と顔の表情とからくる、一般的な意味での”肯定的な力”を連想させるからです。言い換えると、彼女の全体的な状態は”ホッとする”体験に該当していて、これは問題探究から解決ワークヘの変化の兆候だからです。第二に、ルイーズはセッションの初めに、”私になにができるかしら?”という問いを発していました。したがって、この基本的な問いを無視するということは、彼女はなにをしたいのかセラピストとして聞き逃しているということになります。

別の理由もありました。というのは、これより前のセッションで、”混乱しだ、”行き止まり”、”解けない結び目”などの問題志向のキーワードに結びついたつらい感情を、時間をかけて深めていたからです。これらのキーワードに関連してルイーズは、おかあさんによって消化することのできない食べ物をあたえられたことがあったのを思いだし、その後、おかあさんの強制的で侵入的な介入から抜け出すのが困難だったことも思い出していました。最後に、”問題探究”をした前回のセッションでは、ルイーズは”混乱した”と”行き止まり”の不幸なキーワードの感情を、もっと最近の彼女の夫に関連した状況に結びつけていました。例えば、彼女が”飲み込むことができなかった””言葉と態度”(彼女は例をあげました)を夫が表現したときのことです。 

要点は、キーワードワークとは、感情が入ったクライアント言語に正確にまた厳密に焦点を当てるということです。その言語の意味と力を引き出すために、身体志向のサイコセラピストは、ワークの段階のうちで問題を深める段階かもしくは解決を導き出す段階に直接関係したキーワードを選び、それと同時に、心 – 身体の強化を進めていくことを要求します。

このプロセスを我々はどのようにしたらもっと理解することができるのでしょうか? 時には病理的で時には健康な細胞構造を識別する上での顕微鏡の役目を想像してください。これとちょうど同じように、キーワードという細胞構造のなかに埋め込まれた意味、連想、イメージと熱情は意識世界に拡大され、問題を中心に考える、あるいは導くいずれかの器官になるのです。 

キーワードを使うことの可能性をもっとよく説明するのには、その可能性を充分に示している例をいくつか挙げる必要があるのでしょうが、いまのところは、身体志向のセラピストが使うことのできる一連の介入の概略を述べるだけにとどめます。これらの介入は効果的なセラピー戦略のために身体と心を結びつけるために行なわれるものです。別の言い方をすると、無意識へ到る二股に別れた道‥ひとつは強めるという手段による身体の道であり、もうひとつはキーワードを繰り返すことを通して進む心の道‥をどのように我々は使って、クライアントの心理的な痛みを深めかつワークしていくことができるのでしょうか? 下記の章で、セラピストの興味をかきたてかつクライアントの感情的な成長を進めることのできる方法について調べていきます。

比喩に戻る:クライアントが川を渡ろうとして最初の岩の上に立っているイメージを思いえがいてみるとき、その次の部分を”岩の上でジャンプする”部分と呼ぶことができます。

“岩の上でジャンプする”

“岩の上でジャンプする”とは、キーワードもしくはキーフレーズを単に繰り返して言うことによって感情的なワークを強めるということを意味します。”私は動けない!”セラピストとクライアント(一緒に)”動けない!動けない!動けない!”段々声を大きくしていきながら言います。

セラピストがするもっと鋭い”方向づけの質問”‥単純だからといって読者はその価値を過少評価しないでほしいのですが‥としては、”身体全体でそれをやってもらえますか?”というフレーズがあります(このフレーズを言うときは、その内容と同じようにそのトーンも大事なのです。そしてこのことは、キーワードもしくはキーフレーズがその生き生きとした、なまの活気で震えて振動したり、または副交感神経的デリケートさと傷つきやすさを小声で伝えるように要求する方向づけの質問のすべてにもあてはまります)。

“動けない”、”恐い”、”みじめだ”とか”うんざり”というような言葉は、感情的なワークにおける問題の段階で吐き出される言葉です。というのも、これらはクライントの人生における困難な体験を表現した言葉だからです。これらの言葉が出た後、まったく違った一連のキーワードが突然現れたときには、ワークが解決の相に入ったことがわかります。例えば、”自由だ”、”解放された”、”はっきりしている”、”安心だ”などです。”問題から解決へ: 感情的なワークをガイドして建設へと続くように深める”(11)の論文で明確にしたように、セラピストにとってはこれらの問題と解決という二つの段階で、クライアントがいずれにいるのか、その感情的な動きを見分けられることが、彼のセラピストとしての適正が育っていることを示す重要な印になります。なぜならば、言葉の流れの中からクライアントの感情的な状態 ‥問題の相における痛みと解決の相における肯定的な力‥ に応じた特定のキーワードを引き抜くことが、キーワード戦略の必要不可欠の要素だからです。(11)それはちょうど、意識の流れのなかからとびはねるピッタリの語 – 魚を釣り上げるようなものです。へたな漁師として間違った語を釣り上げると、セラピーの進行を妨げることになり、時には有害なインパクトを与えることにもなりかねません。

解決段階においてキーワードを深めていくもう一つの例を示しましょう。クライアントが”今、私は自由だ!”と言います。そこで、”タンゴを踊るには二人が必要”という格言を考えて、セラピストが”私も一緒にそれを言っていいですか?”とききます。この時点で、セラピストとクライアントは口を揃えで今、私は自由だ!”というフレーズを繰り返し始め、段々その勢いを増していきます。その間、二人は足を踏みならし、両腕を空中に振り出し、ふざけあっている二人の子供のように笑い、”私は自由だ!、私は自由だ!、完全に自由だ!”と歌いながら飛び跳ねることになるかもしれません。この瞬間には、彼らが’岩の上でジャンプしている’ことを否定することはできませんね。

“岩の上でうずくまる”

クライアントが”岩の上にうずくまり”始めたというとき、それはなにを意味するのでしょうか? これはクライアントのキーワードや身体エネルギーの全体が、副交感神経的な”内向”状態を表わしていることを意味します。クライアントがこういう状態になった今が、クライアントが‥痛み、傷、恐れ、悲しみ、恥‥などの辛い感情の副交感神経的な深さに降りていけるように、身体強化方法を使うちょうどよいチャンスです。そして、それらの辛い感情を深めるには、例えば両肩を内側に向けるとか、首をたれるとか、背中を曲げるとか、一方もしくは両方の手をお腹または胸の正中線のあたり‥普通、傷つきやすい感情がいちばん強いところ‥に置くとか、ややうずくまった姿勢をとるため膝を曲げるなどの自発的な動きをすることで効果的におこなうことができます。クライアントのキーワードもしくはキーフレーズは普通、”私は見捨てられている”.”どうしようもない”、”私は憂うつだ”、”私は誰からも隠れたい”などの傷つきやすさと無力感に関連しています。言い換えると、このようなキーワードもしくはキーフレーズをうずくまったりかがんだ姿勢で繰り返し言うということは、もうひとつの心 – 身体の強化なのです。我々が岩の上で飛び跳ねているにしても、うずくまった姿勢をしているにしても、これらの状態ではクライアントによって新しいキーワードは加えられていません。我々は、まだ思考のレベルには進んではいないのです。我々は敏感に、副交感神経 – 内胚葉状態と交感神経 – 中胚葉状態を区別し、これらの二つの感情的な様相を交互にガイドして、クライアントが感情的な結び目を解くのを手伝っているだけです。(12)

III キーワードを使って先に進む

前進する:”岩から岩に移る”

キーワード アプローチの優雅さは、個人的な探究の川を渡るのにあたかも岩から岩へと移っていくように、 思考から思考へと前進するとき特に明らかになると、私は思います。

では、次の思考はどこから来るのでしょうか? もちろんクライアントからです。セラピストの側からの解釈、導き、プッシュは一切ありません。キーワードを使って心一身体の強化をした(岩の上でジャンプするか、うずくまった)後、セラピストは単に、”何か思い浮かぶことがありますか?”(もしくは、”何を感じていますか?”、”別の考えを思いつきましたか?”、”イメージがありますか?”もしイメージがなかったら、”なにか特別な身体感覚がありますか?”)と言います。これらは”方向づけのフレーズ”であって、キーワードではありません。そして往々にして、セラピストは何も言わないことがあります。交感神経 – 副交感神経のリバウンドが起こると、通常感情的な深まりがあるかもしくは感情的な解放があります。

この瞬間は、特にこの前に行なわれた心 – 身体の強化が交感神経的 – 攻撃的におこなわれていた場合、実りのあるものになります。我々は、中胚葉的な力で山をほとんど頂上まで駆け登った!そして、それから・・静寂の瞬間。クライアントは内側に深く入っています・・深いところにある感情、柔らかく、デリケートで貴い感情が出てきます。”今内側の深いところに入っていますか?”とセラピストがやさしく訊きます。たぶん、それは泣きたい感情かもしれません。深い傷が握り出されたのかもしれません。”内側にあるのは腫れ上がった傷のようです。”セラピスト:腫れ上がった傷・・・”そして、私たちはキーワードで先に進みます。何が起こっているのかというと、ボディダイナミックが強められたことで、我々は”副交感神経的リバウンド”(13)(交感神経から副交感神経へのリバウンド)に到達したということであり、この瞬間に自己の深い部分が現れます。

クライアントがセラピストの”方向づけの質問”に反応し続けると、新しいキーワードが出てくることもあります:”私、すごく腹が立つのよ””私、あきらめないわ””私、深い穴に落ちています””内側がすごく空っぽに感じられる”。そうしたら、これらのキーワードはあらたな’強化’さらに一歩前進するための足場になるのです。

神経学的考察:深い脳の本体にせまる

一世紀以上にわたる数多くの研究によって証明されているように、言語プロセスは、大脳皮質のなかでブロカ領周辺の神経機能に明確に関係しています。(14) しかし、神経センターは、クルマがそのボンネットの下にエンジンのすべてのパーツを収納しているように、機能のすべての側面を”収納”している訳ではありません。脳は、広大なネットワークであり、その特性はそのパーツすべての間の広大な相互関係から生じるのです。

この脳の”ネットワーグモデルを使うと、我々はキーワードやキーフレーズがどのようにある特定の感情のチャージを明らかにするのか、推測することができます。では、我々の推測とはどんなものでしょうか? ブロカ領の機能に関連したキーワードと、特に感情を扱う脳の領域のつながりは重要ですが、同時に休止状態にあります。この脳の領域とは、”感情脳”として知られている大脳辺緑系を構成するふたつの重要な皮質下のセンター、海馬と扁桃核です。ベンゾジアゼピン行動‥‥ベンゾジアゼピンとは、不安を静める鎮静剤‥‥の場所である海馬は、脳の重要な”記憶蓄積センター”である側頭葉にも緊密につながっています。しかし、上部皮質のブロカ領と下部の海馬 – 側頭葉領域との間のつながりは緊密なものではありません。これらの二つの領域の間のニューロンのメッセージは、フィルターとして働く二つの皮質下の構造体である内鼻部皮質と梁回とを通過しなければなりません。このため、言語パターンはある程度感情の状態と関連してはいますが、これらの二つの機能はいつも密接に関連している訳ではないのです。

それでは我々は、大脳皮質のブロカ領の言語野と皮質下の辺緑系の感情との間のつながりをどのようにしたら高めることができるのでしょうか? 

臨床的な経験から、キーワードやキーフレーズを繰り返し言うときに声の大きさを強めたり、イントネーションをいろいろ変えていろいろな感情表現をするようにしたり、さらに両腕や、両足や、胴体や、顔の表情などを使って身体全部のパワーを加えることで、感情と言語との間の眠っているつながりを”目覚めさせる”ことができることがわかっています。この身体と音声の統合された表現が繰り返されまた強められると、たくさんの脳のニューロンとそれらの体部との結合(筋肉、内臓、ホルモン等)とを目覚めさせ、それによって体部のフィードバックが再びおこなわれて脳のニューロンが放出されると想像されるのです。このように、われわれのワークによって正のフィードバックループがおきて、脳中枢と周辺体部との間で数え切れないほどの回路が点火されるのです。どの神経の回路とセンターがこれらの特定のフィードバックループを構成するのか、もうすこし詳しく言うことはできますが、我々の目的のためには、多重レベルの脳機能の一般的な図式(ポール・マクリーンの’3つのレベルの脳(15)’の図式によれば、意識の皮質と、大脳辺緑系の感情センターと、下部の生命センター)を想像すれば充分です。キーワードを繰り返し言ったり言葉の連想をすることで皮質の連想領域(16)が目覚め、”身体全体での強調”により下部の生命センターが目覚めます。このように、感情脳である大脳辺縁系は上部からは皮質へのインプット情報を受け取り、下部からは生命センターヘのインプット情報を受け取ります。(17)これらの情報はすべて大脳辺緑系に基盤をおいた感情的な強調と変化を刺激するのです。

まとめると、元気よくキーワードやキーフレーズを繰り返す、心 – 身体メソッドを使うことによって、ことば – 感情の神経学的つながりが呼び覚まされ、そのことによって我々の感情的な問題を探りやすくなったり、感情的な解決を導き出しやすくなるのです。

キーワードを使って新たな経験のチャンネルを開く

臨床のワークに戻ると、キーフレーズの使用は前に説明した身体 – 心の強化にかぎったものではありません。もっと漸進的なアプローチがあり、この方法では、”方向づけの質問”(上記した)を慎重に使って、言語のレベルでもう少しなにかを要求します。(この方法はサイコセラピーでもっとも頻繁に使われる介人のひとつです。)

たとえば、クライアントが”わたしは、不安です”と言うとします。

セラピスト:不安ですか‥‥(そして、付け加えます)
“どんなふうに‥‥?”
“どんな方法で‥‥?”
“あなたは今、身体で不安だと感じていますか? それはどんなですか?”
“‘私は不安だ’と言った瞬間あなたの内側でなにが起こっているのか、言えますか?”  
“あなたを不安にする状況についてあなたはなにか知っていますよね。
その状況ではなにが起こるのですか?”

そのため、セラピストはクライアントに連想することを要求することがありますが、そのとき、経験の特定のチャンネル‥‥身体感覚、感情、思考、イメージ、状況かさもなければ、空間もしくは時間(これらは、経験の地図の一部分であるチャンネルもしくは意識の領域です)(18)を指示して連想を要求することもありますし、あるいは一般的な方向で連想を要求することもあります。たとえば、なにか思い浮かびますか? 内側でなにが起こっているのですか?

ここでは我々はなにをしているのかというと、一緒にクライアントの問題への気づきを深めるのに、岩から岩へと一歩ずつクライアントのペースで移動して川を渡っているのです。これらはあきらかに、もうすでに我々がセラピーのセッションで使っているメソッドや質問です。それに対して、キーワード戦略がつけ加えるのは次のようなことです:クライアントから出てきた以外の言語は使わない。セラピストの連想を付け加えない。クライアント自身の気づきの英知と心理的な性向でデリケートなワークをリードしよう。

種を植えつける:セラピストが直感を使うときは慎重に使う

最後に、”セラピストはクライアントから出たのではないキーワードは加えない”という原則は絶対ではありません。上述したキーワード – 身体強化メソッドをマスターしたら、セラピストは新しいキーワードをあえて加えることもあります。しかし、これはよく考え、またクライアントの心理的な性向を尊重して行なわれなければなりません。

この最後の点を説明するために、クライアントが”私は、不安だ。”という簡単なフレーズを言う上記の例に戻ってみましょう。上記の章”キーワードを使って新たな経験のチャンネルを開く”では、ゆっくりとした忍耐強い探究方法を説明しましたが、もしセラピストがこの探究方法の利点より、実生活の状況への認識的なつながりと関連をもっと具体的に探し出す言語的アプローチのほうが勝っていると感じるならば、セラピスト自身の直感から出てくる可能性を、ひとつかふたつ謙虚に提案することによって、具体的な連想の”種を植えつける”ことができます。これはとても複雑な分野ですが、どんなことが可能かを示すためにいくつか例示してみます。

軽い植えつけ:セラピストが一般的な例をいくつか提供する

軽い植えつけによってクライアントの心の地面に種をまく時は、セラピストは状況についての連想において具体的に次のレベルにいくだけにとどめます。 

セラピスト:不安‥‥それは仕事についてのことですか? 
      それとも家庭の状況ですか? 
セラピスト:不安に感じている‥‥それは批判されるのが恐いということに
      関係していますか? もしくは、他の人に拒否されるのが恐いということに
      関係していますか? 
セラピスト:’私は不安だ’と言うとき、ここに来ることがその不安をひきおこしている
       のですか? あなたの感情に直面しようとするからですか? 
      それとも、私がここにいることがあなたを不安にさせるのですか?(19)
セラピスト:’私は不安だ’という身体感覚は特定の時に出てくる様に私にはみえるんです。
       この間、あなたが同僚と話をするのがむずかしいと言ったとき、この’私は
       不安だ’という感情と同じ感情をあなたは味わうのかな、と思ったのですが、
       どうですか。(セラピストの言葉のエコールームが頻繁に活用されるために、こ
       の”種を植えつける”の提案ではどの場合も、キーフレーズを繰り返し言って
       いることに注意して下さい。)
深い植えつけ:セラピストは直感で得られるいくつかの探りを提示し、そこで止めます!

ここでは、クライアントのために、軽い植えつけの場合よりもっと具体的な状況が提示されます。しかし、これはセラピストが自分が提示することが正しいと思うからではなく、単に”具体的な連想”を心的なレベルで刺激するために行なわれるのです。

セラピスト:”前回おっしゃったことですが、例えば、ご主人が上の息子さんを非難しはじめ、
      あなたはそのご主人の態度に賛成できなくて、しかしあなたがおっしゃったと
      思うのですが、子供達の前ではご主人に反発したくない時に、あなたは不安に
      なるのですか?
クライアント:いいえ、そうではなくて‥‥でも、主人が突然イライラし出して、出かける
      と言ってドアをバタンと閉めて出ていって、ああ、夫はまた酔っぱらうん
      だわってわかると、わたし不安になります。

“軽い”レベルであろうと”重い”レベルであろうとセラピストが具体的な連想を提示することで種を植えつけるというのは、必要ならばときにはセラピストが自分の直感的な骨組みから得られる新しいキーワードと具体的な状況を導入できるということです。実際、これは”解釈をする”ということとほとんど同じだといえるかもしれません。しかし、種を植えつけるということと解釈をするということの間にはいくつかの違いがあります。というか、種を植えつけるときには少なくともいくつかの注意事項があります。第一に、セラピストは主導権をとって”種を植えつける”ことを頻繁にするべきではありません。というのは、そうするとクライアント自身の連想のプロセスを断ち切ることになるからです。第二に、これは本来、クライアントが自分のためにやるべきワークであるので、セラピストの”連想的介入”は、クライアントが自分自身の力で同じような”思考の進化”に近づくのを促進するために行なわれるもので、”化学反応を触媒する酵素”のような働きをします。第三にセラピストのトーンはあくまでも謙盧でなければなりません。つまり、セラピストは、彼が直感を使ってワークにのぞむのが”正しい”と思われたいためではなく、彼の唯一の願いはクライアントが自分で連想の材料を見つけるのを手伝うことだということをはっきり態度で示すようにします。(20)第四に、セラピストがする提示はすべてキーワードもしくはキーフレーズに関係したものであり、これをクライアントとセラピストが一緒に何度も繰り返しながら岩から岩へと移動するワークが順調に進みます。

結論:私は、感情的な問題を探りかつ変化させるセラピーのセッションを行なう場合に、三つの基本的なマップが必要(そして時には十分)条件であると提案します。これらのマップとは、1.副交感神経 – 内臓の感情と交互に起こる交感神経 – 筋肉の感情のマップ、2.問題から解決へのマップ、3.抽象から具体へのマップ。これらの三つのマップに従い感情一認識のプロセスをたどると、クライアントは辛い感情を深めたり探ったりするとともに、将来のために可能な解決を工夫することのできるセラピーを与えられることになります。

では、キーワードはどうでしょう? これらの無意識のプロセスを開けるためのキーがこのキーワードなのです。セラピストは、クライアントがまず暗い無意識の地下室をさぐり、そして後に、太陽の光の射す上の階へと新しい可能性をつみ上げていくプロセスに一歩ずつついていくのです。

引用文献

1.副交感神経系の”傷つきやすい”感情と交感神経の”攻撃的かつ自己主張的な感情”は、J.リス『感じるのが自由』(ロンドンのワイルドウッドハウス社、1974年)の”自律神経系と感情”で討論されている。

2.我々はお互いの振舞いを見ることができるが、お互いの内的な経験は見ることができない、内的な経験は経験した当の本人を除けば誰にもみえなくかつ誰からも秘密であると、R.D.レインは指摘している。これは私たちがお互いの内面の生活について述べること‥例えば解釈‥はいつも仮説として表わされなければならない、ということを意味する。確信をもって他の人の内面の生活の性質‥感情、思考、意図‥を断言することは、各人の根本的な違いを踏み超えることであり、そのため、他人への侵入とその人への尊敬を欠くことになる。R.D.レイン『経験の政策』(ロンドンのペンギンブック出版、1969年)のなかの第一章”人と経験”(特に18‐20ページ)を参照。

3.どれがクライアントのキーワードなのかを直感で知ろうとする課題はトレーニンググループにおいて練習されるであろう。その時、もしどの言葉もしくは一連の言葉がキーワードもしくはキーフレーズなのか、学んでいるセラピスト達の間で意見が一致しない場合、この質問はクライアントの役をやっているセラピストに向けられる。どの状況においても、どれがキーワードなのかはフレーズを言った人が最終的に判断する。

3A.R.D.レイン、H.フィリプソン、A.R.リーの人間関係の知覚(ロンドンのタヴィストック出版、1966年)。

4.この論文は精神分析には三つの基本的な理論があると提案しています。そのなかのセルフ理論は、フェアバーン、マーラー、ヤコブソンそしてコーヒューによって展開され、インパルス理論は、フロイドとメラニークラインによって展開され、対象関係理論は、フェアバーン、ガントリップ、そしてウィニコットによって展開された。これらの三つの理論を心理的なワークの基盤として選んだ理由は、これらは全体としてみると西洋の言語において言語構造の基盤を表わす文法上のフォーム、”主語、動詞、そして目的語”にそれぞれ対応しているからだ。『エナジーとキャラクター』(デイビッド・ボアデラ編集)1992年9月と1993年4月のなかのジェローム・リスの”セルフ、インパルス、そして他者”を参照。

4A.クライアントがこのアプローチを拒否するときは‥私の気持ちの上ではこれは抵抗ではなく、セラピーについての別の期待にすぎないが‥我々は、別の可能性をさぐる。

5.ボディエンパシーの概念は、モーリッツィオ・ストーピジア博士によってLa Terapia Biosistemica(ジェローム・リスとモーリッツィオ・ストーピジアによって編集され、1995年ミラノのエド フランコ アンジェリ)の第二章”エンパシー”のなかで初めて提案され、展開された。
5A.ジェローム・リズ問題から解決へ:感情的なワークを深め、建設へと続くようにガイドする”(未出版、1998年)を参照。

6.”問題から解放へさらに解決へ”の変化についての詳細は、上記の記事を参照。

7.”副交感神経”と”交感神経”にそれぞれ対応する”内胚葉”と”中胚葉”という用語を理解するには、デイビッド・ボアデラ著『ライフ ストリーム』(ロンドンのルーレジ アンド ケーガン ポール、1987年)と『エナジーとキャラクター』28巻、N0.1、1997年4月 のなかのジェローム・リスによる記事”筋肉と内臓:科学的なプロジェクトとしてのボアデラーリス モデルとを参照。

8.セラピストによっては本題に入らないで”私はもっと息のできるスペースがほしい”というような一般的な方向付けでワークを終わらせることがあるが、私はこれはクライアントの成長を制限することになってしまうと思う。”何を?、いつ?、誰と?”を具体的に定義するのは、ワークのある段階ではクライアントの成長にとって必要不可欠である。

9.この特定のセラピー段階は”具体的な解決ワーク”といい、”深層心理学”の論文では頻繁に討論されることはないにもかかわらず、実生活を変える上では効果的な手段である。また、クライアントに逃げがある場合は、このセラピー段階は、後に続くセッションで新しい”深層ワーグを挑発するためにも使われることができる。詳細は”否定から肯定へ”(すでに引用されている)の論文を参照。

10.身体依存の記憶と心理的連想についてはアーネスト・ロッシの心 – 身体の癒しの心理学(ニューヨークのW.W.ノートン出版)を参照。この本のなかでロッシは身体依存の記憶を”状態依存の記憶”と呼んでいる。

11.キーワードはその筋肉 – 交感神経的もしくは内臓—副交感神経的な意味に応じても選択される。例えば、”私、自分が何をしたいか知っている!”(両腕と両肩を元気よく動かして言う時)は”筋肉 – 交感神経”のキーフレーズ。一方、”私、今暖かくて、柔らかくて、明るい気分だわ”(柔らかい声と一方の手をお腹の上で動かしながら言う時)はその人の状態が”内臓 – 副交感神経的”だということを示している。このケースの全体の説明は”筋肉と内臓”(すでに引用した)の記事を参照。また、クライアントとセラピストの聞の内臓 – 筋肉の相互作用の詳細なデモンストレーションは、ビデオフィルムの”お父さん、あなたに会いたい!”を参照(専門家だけのためのビデオフィルム)。

12.すでに引用された『感じるのが自由』のなかのジェローム・リスの”自律神経系と我々の感情”を参照。

13.『エナジー&キャラクター』20巻、N0.1、1989年4月、21ページから44ページのジェローム・リスの”垂直方向の根付き、水平方向の根付きと交感神経 – 副交感神経のリバウンド”を参照。

14.スチーブン・ピンカー著『言語本能、新しい言語と心の科学』(ロンドン、ペンギンブック、1994年)特に307ページから314ページ

15.心身医学、1948年、11巻、338ページから353ページのポール マクリーンによる古典的記事”心身症と本能的脳、感情のパペツ理論に関する最近の展開”を参照。

16.ストレスがどのように大脳皮質の連想機能を中断させるかについてと、大脳皮質の連想領域の相互作用が再開するとそれによって人はどのように心の平静を再び取り戻すかについての説明としては、Neurophysiologie de la Douleur(パリのハーマン 1972年)のなかのC.カーテイとJ.ルノーによるEEG研究に基づく興味深い研究を参照。

17.内臓の人力は曲がりくねったルートをたどって大脳辺緑系に着く。つまり、迷走神経からスタートした内臓の感覚人力は孤核のレベルで脳に入り、その後一連の短繊維を通って脳橋を登り、三叉神経領域と中央の灰白質に着き、そこから感覚入力のメッセージはさらに上方の大脳辺緑系に中継される。ここでもまた、内臓の感情人力と感情の経験を統合するためには、例えばキーワードを繰り返し言ったりまた強調することによって”間接的なつながり”を補強する必要が明示される。チャールス・H・ホックマン(編者)の大脳辺緑系のメカニズムと自律神経の機能(チャールス C.トーマス出版、1972年)のなかのワリー・ノータによる”中枢内臓運動系:概説”(21ページから39ページ)を参照。

18.サイコセラピーのプロセスをガイドするのに使われる”体験マップ”の例としては次のものがある。  a. これらの規準に基づく意識のマップについては、ジェローム・リスの「感じるのが自由」(以前に引用された)の”興奮、柔軟性、明晰、複雑さ”(1 0 2ページから103ページ)。 b.意識の身体、言葉一思考とイメージの次元のモデルについては、リチャード・バンダーとジョン・グラインダーの『王子様になる蛙、神経言語プログラミング』(リアルピープルプレス、1 9 79年)。  c. 身体感覚、言葉とイメージの開の相互作用を強調するマップについては、ユージン・ジェンドリンの『フォーカシング』(エヴェレストハウス出版、1978年)。 d.意識の言葉、イメージと身体の領域、身体領域は位置、ジェスチャー、感覚そして動きを含む、の説明については、ジョージ・ダウニングの II Corpo e La Parola 「身体と言葉」(アストロラビオ出版、1996年)(ドイツ語とスエーデン語版もあり)。

19.ここで使われる言語は特別にはクライアントの成育歴から得られる材料で満ちている訳ではないけれども、そしてこの意味では”軽い植えつけ”を表わしているが、この言語はクライアントとセラピストとの開の今‐ここでの関係、すなわち、”転移”を取り扱っているので”深い植えつけ”と考えることもできる。

20.クライアントは、セラピストが自分の個人的な考えを押しつけことには関心をもっているのではなく、クライアント自身の直感を刺激しようとしているだけだということをどのようにして感じとることができるか? 次の二つの場合がある。第一は、新しい考えを提示しているセラピストの声のトーンが確信的ではなく、”仮説を提示している”トーンであること。その場合クライアントは自己評価しなければならない。第二に、クライアントがセラピストが直感で提示したものは”違う”と言い、代わりに正しいものを言った場合に、セラピストはそれを直ちに受け入れて、正してくれたことを感謝する。

   (文責:上野里子)

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